今さらでもないが、今回の不況は本格的だ。社内営業部門に聞いても、ほとんどの業界で不況感が急速に強まってきている。しかし不況とは平均値の議論であり、細かく見ればまだまだ良いところも散在していることも事実である。
例えば、全体的に良くない半導体業界の中で技術力と先見性で一人勝ちしているメーカーも存在する。紙パルプ業界はよくなく、ティッシュペーパーなどを作っているメーカーはたいへんであるが、祝儀袋用などの和紙専業メーカーではきわめて高収益を享受しているところもある。かつては不況の代表業種であった造船業界だが、強い造船メーカーの船台は2000年までの受注で満杯である。不況感の強い不動産業界でも都心を中心に保有ビルの空室率がゼロという貸しビル業者もいる。
景気が悪いとか良いとか言うのはあくまでもマクロの議論である。業界をミクロベースで細かく見ると、まだまだ「まだら模様」なのだ。日本経済はいまや全体としての右肩上がり成長が期待できる状況にはない。そのなかで各営業部隊は懸命に、残っている「よい部分」を見つけだし、それをビジネスの種にしているのである。
常に柔軟に、時代の変化を先取りし、守備範囲と攻撃目標を柔軟にシフトさせるのは総合商社ならではの対応である。こういった分野が存在する限り、日本経済の将来はいわれているほどグルーミーでもないように思う。
もっとも気になる点もないわけでもない。グローバル化の大波の中で、どういった産業部門が「勝者」になっているのかと見れば、生産性とか国際性とかとは必ずしも関係がないようなのである。
例えば石油業界だが、特石法の導入で、国際的に見て著しく生産性が劣る小規模のガソリンスタンドを中心に流通経路の合理化と淘汰が進むものと考えられていた。しかしふたを開けてみると、自由化でガソリン価格が大きく下がる中で、零細スタンドはしぶとく頑張っている。逆に近代的な設備を保有して、一見ずいぶん国際的な石油元売り各社の方が、ガソリンを買い叩かれて、経営がしんどくなっているのである。
ガソリンスタンドなどの地域密着型の流通業界は、零細な家族経営が多く、労働生産性では確かに劣るものの、最後は家族の食費を削ってでも戦いうるという、恥も外聞もない抗戦力がある。最終消費者を握っていることも強みだ。また外国企業が代替できる分野でもない。よってなかなか負けないのである。
これはいくつかの面で示唆的であるように思う。つまり、わが国においては、グローバル化の大波の中で、産業の淘汰が進む部分は、必ずしも最も非効率的な部分とは限らない、ということである。農業や、コストが高くて数が多すぎるといわれる土建業についても同じことがいえる。いくつか行き詰まりも報じられるが、ほとんどが会社更生法の適用であり(自主廃業ではないので)業界全体ではなかなかスリム化が進まない。一方で大きな金融機関は簡単に破綻する。経済的な比較優位よりも、社会的、生物的な持久力が最後はものをいうのだ。
これは合理的な傾向であるとは思えない。社会構造的な改革も同時に進めないと日本経済は全体としての競争力を失うように思われる。
(橋本)